2006年09月15日

登頂ルートはひとつじゃない

二宮:
佐野さんは現役時代、何人の監督のもとでプレーされましたか?

佐野:
日米あわせて9人ですね。とにかくいろんなタイプの人がいました。

二宮:
その中で理想的なリーダーだったと思う方は?

iv29_sano01佐野:
講演でもお話しさせて頂くのですが、やはり近鉄バファローズ(現:オリックス・バファローズ)時代にお世話になった仰木監督(※)ですね。仰木さんは、僕らと同じ目線に降りてきてくれたところが、すごくありがたかったです。少年野球にしろ、プロ野球にしろ、監督というのは野球選手にとって特別な存在です。特に僕は、プロに入りたてのルーキーだったので、監督なんて雲の上の人。チーム内で一歩も二歩も引いていたのですが、そんな時、仰木さんはみんなの前で僕を平等に扱ってくださった。
(※故・仰木彬氏)

二宮:
私は仰木さんと一緒に本(※)を出版させて頂いたのですが、仰木さんは、「個性は人それぞれ違う」ということを認めていた人だと思うんです。実績を残してきた人というのは、何かしら「理にかなったこと」をしてきたことは確かです。でも、それが万人にマッチするとは限らない。登山でもそうですが、登頂ルートは1つじゃないんですから、自らの成功体験を人に押し付けてはいけない。それを仰木さんは知っていた。よく、『野茂のトルネード投法や、イチローの振り子打法の生みの親』などと評されることがありますが、あの言い方は少し違うと思います。仰木さんがトルネードや振り子を野茂やイチローに教えたわけじゃない。彼らのスタイルを「認めた」からこそ、才能が伸びていったのだと思います。

(※『人を見つけ人を伸ばす―個性を発掘する人材活用』 光文社刊

佐野:
そうですね。仰木さんのすごさは、「相手のことを認めてあげる」ことでした。一般に、「長所を伸ばせること」がリーダーの条件として挙げられますけど、実際は、伸ばすことはなかなか難しい。それよりも、まず相手を認めてあげることで、長所が勝手に伸びていった、という感じだと思いますね。

二宮:
それはやはり、選手をひとりの大人として扱っていたことの表れでもありますよね。

佐野:
それは強く感じていました。同じミスでも、怠慢プレーから起こるミスをすると主力選手でも平気で2軍へ落としましたし、時には激しく叱責するときも。その代わり、試合に挑むまでのプロセスはまったく気にしない。それこそ、夜遊びしようが、酒の匂いをさせてこようがプライベートには一切、干渉しなかったですね。

二宮:
試合以外では何してもいいけど、試合ではベストを尽くせ、と。それが「プロ」ですよね。まあ、プライベートに関しては、仰木さん、人のこと言えないですからね(笑)。

佐野:
そうです(笑)。夏が近づいてくると、軽くウェイトトレーニングをされるんですよ。健康のためかな、と思ってたんですけど、どうやら女性にモテるためだった、という(笑)。

二宮:
実際、男女問わず「モテる人」でしたね。人間的に魅力がありました。逆に、「失敗するリーダー」に共通項はあると考えますか?

佐野:
やはり、「全部を喋る人」ですかね。「自分はこれをこうして、ああしてうまくなった」と、自分が辿ってきた道筋を全部喋るんです。そして「だからお前らも同じことをやれ!」と。でも、なぜそれが良いのかという明確な説明がないうえに、その他の選択肢も与えられない。選手は自分の頭で考える余裕がないんですよ。

二宮:
過去に実績を挙げた人にほど多い傾向ですね。自分が全部正しいと考えて、経験則で物を言う。「黙って俺についてこい!」という自信はリーダーにとって必要ですが、一方で聞く耳も持たなくてはならない。

リーダーは「パイオニア」であれ

 

佐野:
二宮さんはお仕事柄、野球以外にもさまざまなリーダーとお会いしてきたと思うのですが、印象に残っている方はいますか?

iv29_ninomiya01二宮:
私がスポーツ界で最高のリーダーと考えるのは、日本サッカー協会会長の川淵三郎さんです。80年代後半に「Jリーグ百年構想」を旗印に、サッカーがプロ化するときの話なのですが、何かを改革する時は、どこの世界でも”抵抗勢力”が出てくる。ある会議で噴出した「時期尚早だ」、「前例がない」という反対意見に対して、川淵さんが放った言葉は今でも覚えています。「時期尚早と言う人間は、 100年経っても時期尚早と言う。前例がないと言う人間は、 200年経っても前例がないと言う」。このときの名演説が周囲の人間を突き動かし、Jリーグ誕生までの動きが加速しました。あのリーダーシップがなければ、日本のサッカーはここまでのものになっていなかったと思います。まさにパイオニアですね。私は、リーダーの条件は「パッション」(情熱)と「ミッション」(使命)と「アクション」(行動力)―基本的には、この3つだと思っています。

佐野:
パイオニアになる人は、リスクや失敗を恐がりませんよね。

二宮:
人間、本当に必死な時って恐くないんでしょうね。目的のためにはひるまない。もちろんリスクは感じているのでしょうけれど、それを上回る”使命感”を持っていたのでしょう。

佐野:
パイオニア、先駆者という点では、近鉄時代に一緒にプレーした野茂(英雄)もあてはまります。彼の強みは、「変わらない」ということです。日本にいるときから、大リーグに行ってからも、常に自分自身のレベルアップを怠らない。それは周りの選手にとって、非常に良い刺激になります。

二宮:
野茂選手がパイオニアたるゆえんはそこですよね。一度決めたら、周囲がやろうが、やるまいが、自分の軸が絶対にブレない。その信念はすごいものがあります。まさに“不言実行”。うしろ姿で周りを引っ張るタイプのリーダー像ですね。言葉じゃなく態度で示してくれる先輩がいる組織は強い。

メンバーの「参加意識」を刺激する

iv29_sano02佐野:
いま、こうやってリーダー論について話していますが、実はきちんと整理がついたのは、プロを辞めてからなんです。

二宮:

現役時代は、どういったお考えだったのですか?

佐野:
今、考えると非常に自分勝手な話ですが、「自分を起用してくれるのが良い監督、起用してくれないのが悪い監督」という考え方ですね。

二宮:
いや、それは当然だと思いますよ。特にプロは、起用されるかされないかが収入に直結する。それにどこの会社でもそうですが、自分を使ってくれれば部下は上司に「期待されている」と感じます。

佐野:
そうすると普通、「じゃあ頑張ろう」という気になりますよね。やはりリーダーは、部下に「自分のことを諦めてくれてない」と感じさせることが重要だと思います。例えば、僕が現役時代、ノックアウトされた試合の後、いくら監督に「お前はアカン!」と言われても、実際、翌日の試合にまた使ってくれるということがありました。やはり監督からの期待を実感して、モチベーションが上がりましたから。

二宮:
ミスしても次のチャンスを与えてくれる、それが重要ですよね。そういった意味では、今の時代は時間の流れが非常に早いぶん、ミスしてもいくらでも取り返しがつくと思うんです。むしろ、失敗の経験値を生かして、次へ繋げれば成功が大きい。何もしないということは、遅れをとることと同義なんですよ。不作為の罪、これが一番重い。そんな時代だからこそ、次々にカードを切っていくリーダーが強い。

佐野:

たしかに、昨季のペナントレースの覇者、ロッテのバレンタイン監督は、日替わりの先発オーダーや、選手交代の多さで話題になりました。
組織のメンバーをより多く使うことで功を奏した例ですよね。

二宮:
そうすることで、各人に「参加意識」というものが出てくると思うんです。人間は誰しも組織の中で参加したい、役に立ちたいという欲求がありますから、これを刺激するんです。そう考えると、メンバー全員の参加意識が高まることで組織はより強化される。それに、1人よりも、3人の力で目的を達成したほうが、組織に対する「忠誠心」が育つことになりますから、全体的に見ても重要なことなんです。

iv29_ninomiya02佐野:
だから例え、ほんの小さな仕事でも、組織の中で貢献したという実感が強く持てるような組織作りがリーダーに求められてくると思います。プロ野球でも、優勝するチームは全員に参加意識がしっかり根付いていますね。選手やコーチ陣だけではなく、球団職員や球場のスタッフなど、いわゆる裏方のメンバーも含めて、チームに関わる全ての人間がその意識を持っています。

二宮:
チームの一員という自覚がある。自分の力だけじゃなくて、みんなで喜びを分かち合えることが大切ですよね。

学校の先生はなぜ尊敬される?

佐野:
組織によって、いろんなタイプのリーダーがいるのは当然だと思うのですが、不可欠の条件は何だとお考えですか?

二宮:
私は「解決力」だと思います。部下がリーダーを信用してついていく、というのは、リーダーが問題を解決できるからなんですよ。平たく言ってしまえば、小学校の先生は、生徒が解けない問題を解けるから生徒に尊敬されるわけですよね。それと同じです。

佐野:
ただ、学校の算数や英語の問題に比べて、現実の問題は解決に時間がかかりますよね。

二宮:
仰るとおりです。でも、その時間の中で「俺たちはうまくなっている」とか「強くなっている」という実感が持てればいいと思います。何かが良い方向へ動いている、というような。そのためには、リーダーは部下に対して、解決までの道筋や、選択肢を具体的に示せるか否かが重要になってきます。人間、納得ができないと反発を覚えますからね。

佐野:
あくまでも「選択肢」をいくつか示すことが重要ですね。さきほどの「悪いリーダー」の例でも出ましたが、1つのやり方しか説明しないと、それを押し付けることに繋がりますからね。

二宮:
1つのやり方を強要せず、かといって放任するでもなく、いくつか選択肢を与え、それと同時にトライするチャンスも与える。そこから本人が自分に合うものを選んでいけばいいんだと思います。
佐野さんがお考えになる、リーダーに不可欠の条件とは?

佐野:
僕は、やはり「相手を認めること」と「相手に認めさせること」の両方が必要だと思います。どちらが欠けてもだめ。リーダーといっても、最初から理想的なリーダーなどいませんし、「なるぞ!」と思って急になれるものでもない。ただ、部下としては、自分より明らかに実績のある人が自分を認めてくれると、その人についていこうと思います。だからまずは、リーダーの方から部下を認めることで、相手からの信頼を得ることができるのではないかと考えています。

<了>

――対談開始から約1時間半近く、「リーダー」について熱いトークは続きました。

実際のお二人の講演では、ここに掲載しきれなかったさまざまなエピソードが登場し、思わず「なるほど」と、メモをとってしまいたくなるようなお話の連続で、聴講者を飽きさせません。
スポーツから学ぶリーダー論は、ビジネスシーンにも通じるものがあるようで、今までに多くの企業様から好評の声を頂戴しております。

お二人とも、貴重なお時間の中、どうもありがとうございました!

iv29_ninomiya-sano

文:上原深音 / 写真:鈴木ちづる   (2006年9月15日 株式会社ペルソン 無断転載禁止)