2017年10月02日

「ゆとり世代」は自分で決めさせると、自分で頑張る

「ゆとり世代」とのコミュニケーションギャップに悩んでいる企業が増えています。「ゆとり世代」とはどう向き合うべきなのでしょうか?

尾木直樹さん講演依頼.comスペシャルインタビュー

まず、ゆとり教育が間違いだったとか、ゆとり世代は使い物にならないとか、そういう考え方を持たないことですね。ゆとり世代の本質を企業がしっかりつかむことができれば、企業はもっともっと活性化すると思いますよ。ゆとり教育についてはいろんなことが言われましたが、その本質は何かというと、個別教育への転換です。

昔は違っていました。1クラス40人、一斉授業で「はい、国語の教科書の15ページを開いて」と始まり、「はい、尾木くんから読んでごらん」と順番に当たり、「わかるかな」とみんなに向けて授業が行われる。この方式は、高度経済成長を支える人材を育成するためでした。一定の質を持ち、力量を持つ人をどう育てるか。これが効果を発揮して、戦後の日本の復興を支えたんです。たしかに、この時代には合った教育でした。

でも、「こういう日本の教育を真似したい」という国がどこかと言えば、エジプトや東南アジア諸国なんです。発展途上国です。先進国のフランスやイギリス、アメリカ、カナダから、「日本の教育を学びたい」なんて一言もない。日本の教育はとても遅れていたんです。それで始まったのが、個別教育だったんです。

ゆとり教育は間違っていた、というイメージが世の中では強いですが?

個別教育とは何かというと、「あなたはどうしたいのか」という自己決定を重視していくということです。その時間的な余裕を作るために、教える中身を減らしたんですね。その教育がどんな成果を生んだか。それは、アスリートを見てみるととってもわかりやすいんです。今、世界で活躍している日本のトップアスリート。例えば、フィギアスケートの羽生結弦選手。それからテニスの錦織圭選手。水泳界の萩野公介選手、瀬戸大也選手。卓球の平野美宇選手。体操の内村航平選手……。みんなゆとり教育のど真ん中ですね。国際的なレベルで、一流のアスリートとして、金メダルを獲ったり、かつてないほど世界で活躍している。そしてこれは、ゆとり教育から生まれたんです。

このことを一番よくわかっていたのが、ある日本の元アスリートです。誰だと思いますか。「ゆとり教育の成果で、今スポーツ界はこんなに変わった」と言っている。驚かれるかもしれませんが、松岡修造さんなんですよ。松岡さんといえば、昭和の典型みたいに思われるかもしれません。「気合いだー」「頑張れー」を連呼して、暑苦しいとまで言う人もいる。でも、一度、文藝春秋の雑誌「Number」で対談することになって、びっくりしたんです。錦織圭選手の話でした。松岡さんは、キッズスクールに子どもたちが入ってくると、「将来どんな選手になりたい?」「将来どうしたい?」と聞いていたんですね。すると錦織君が初めて、こう言ったというんです。「世界の4大大会で優勝したい」と。松岡さんはびっくりしたそうです。これは、錦織君が初めてだった。全日本の選手になりたい、とか、全日本で優勝したい、というのが当たり前の将来の夢だったから。すごい、なんというヤツが来たのか、と思ったそうです。

ところが、錦織君以降に入ってくる子どもたちも同じだったんです。みんな世界を相手にしたことしか言わない。「全日本で」なんて言わない。そして、コーチに指示されることもなく、自分で目標を決めて自主的に動く。松岡さんは、これは一体何なのかと思って一生懸命考えたんだそうです。何が錦織君以降の子どもたちを変えたのか。その答えが、ゆとり教育だったんです。

ゆとり教育が、子どもたちの何を変えたのでしょうか?

尾木直樹さん講演依頼.comスペシャルインタビュー

勉強にゆとりができて、時間ができた。しかも土日が休みになって、「今週の土曜日何しようか」「日曜日どうしようか」と考えないといけなくなったわけです。何をすべきか、自分で考えるようになっていったんです。そういう発想が身に付いていった。そこに世界で活躍している選手の姿が次々に入ってきた。だから、大きな視点、自由な発想、自分たちでやることを考える、という特徴を活かしてあげればいいんですよ。なのに、ダッシュ100回とか、1000本ノックとか、精神論をぶつけようとするからうまくいかない。

青山学院大学の箱根駅伝の3連覇。原晋監督の指導法は素晴らしいと言われますが、ガンガン走れ、なんてまったく言っていない。それどころか、監督が「これをやれ」という命令もほとんどしていない。どうしているのかというと、学生たちが自主目標を立てるんです。「今月は何分何秒台で走れるようにしたい」など。目標を掲げると、宿舎に貼りだして、「あいつはこの目標立てたのか」とお互いに見て励まし合う。自己決定と自己責任。これがゆとり教育の大きな精神なんです。

羽生結弦選手もそうですけど、他人と戦っていないんですよ。他人との戦いではなく、自分との戦いなんです。金メダルが目標ではないんですよ。そもそもメダルは相対的なもの。得点が多かったから、金メダルになっただけ。羽生君はそのくらいの感覚ですよ。だから金メダルを獲っても喜んでいない。この感覚こそ、今の若い人の感覚なんです。だから、自分の目標が持てるような支援とか、激励とか、相互関係こそが必要なんです。これは、会社に入っても同じですよ。

オランダはなぜワークシェアリングが可能なのか

自分で決めていく、ということが大事になるのですね?

尾木直樹さん講演依頼.comスペシャルインタビュー

オランダという国があるでしょう。オランダはワークシェアリングをしていて、週の半分くらいしか働いていないし、18時頃になったら全部シャッターが閉まります。日本とは、全く違いますね。労働時間は日本より圧倒的に少ないんですが、労働生産性は高いんです。1時間あたりで見ると、オランダは日本の約1.5倍なんです。日本は不夜城のように働いているけど、オランダはそんなことはしません。

教育においても、夏休みなんて、子どもたちも学校の先生も2カ月完全ロックアウトです。学校にも入れないんです。日本の教師は夏休みでも毎日学校に行っていますよね。でも、教育でも、日本とオランダの学力はそれほど変わりません。オランダでは宿題をまったく出さない学校もたくさんあるのにです。僕はこれがものすごく疑問でした。理屈で考えてもわからなかった。でも、オランダへ視察に行ってようやくわかったんです。やっぱり、自己決定だったんですよ。自主性を持って、自分で決定する。

オランダは、小学1年生が4歳から始まるんです。ただ、一斉に始まるわけではない。5月に4歳を迎えたら5月から、9月なら9月と4歳を迎えた時期から始まります。同時スタートじゃなく完全個別教育です。しかも、月曜日の1時間目を見せてもらうでしょ。4歳のある子は算数をやっていて、ある子は英語をやっていて。バラバラ。好きなことをしている。自己決定なんです。4歳からこれです。それを支援していく先生は大変ですよ。だって、全部見守りコントロールしていかないといけないから。この子は今週ここまでやる、と目標を立てたけど、ちょっと無理だから、ここらへんからしたほうがいいかな、なんてことを考えないといけないわけです。でも、できるんですね。クラスが22人くらいしかいないから。しかも複数担任制。22人に2人ですから、1人で10人見ればいい。これなら見られます。日本はだいたい1クラス40人ですから、どんな優秀な教員でも難しいでしょう。

でも、子どもに任せてしまったら、サボったりしませんか?

自主性だけで大丈夫なのか、と僕もはじめは思ったわけです。見ていると、小さな子は一生懸命。でも、5年生くらいになるとサボる子が出てくるんです。きっとそうだろうと思っていたら、案の定いたんですよ。ある女の子がサボっている。先生は気が付かないのかな、気が付いたらどうするんだろうと思っていたら、気が付いていた。それで女の子のそばに行って、先生はなんて言ったと思います?「あなた、放課後お勉強するのね?」自己決定ですから。あとでやるのね、と。そうしたら、その子はびっくりして、「今します!」と、いきなり勉強を始めた。つまり、自分で決定したんだから、やらないのも自由。一方、自分で決めた以上は放課後に残ってでもやる、というふうに育っているわけです。プライドが許さないのね。4歳から、そこに火がつくようになっているんです。

こうして大人になって労働者になると、どうなるか。自分で決められるわけです。例えば、車を今月は5台売ると決めた。20日過ぎてもまだ2台しか売れていなかったら、自分が決めた目標をクリアできない。だから、自分で「じゃあ、新しい地域の開拓をするか」「違う形の営業活動をするか」なんて考える。それで結果、やってしまう。労働時間が短くても、常に自分との戦いで、自己責任でやっていく。だから、結果が出てくる。日本は「課長が言うから」とか「本社から降りてきた目標だから」ってなりがちでしょう。自分で目標設定させると、低めに設定して「120%達成だ」なんて呆れたことも起きたりする。だから日本はオランダみたいにワークシェアリングが進まないのよね。

でもオランダは違います。自分で目標を決める力が、子どもの頃から育てられているわけです。それが当たり前の感覚になっている。家庭でも、日本では「宿題やったの?」なんてよく言うでしょう。だから、いつまで経っても「いかに上司の目を盗んでサボるか」「営業に出たら喫茶店で休める」なんてことが生きがいになったりするんです。

自分で決めるから、自立心が出てくるんですね?

尾木直樹さん講演依頼.comスペシャルインタビュー

そもそも自分でやらないと損をするわけですね。それをみんなわかっている。自己責任なんですよ。同一賃金同一労働だから、同じ能力ならどこの会社で働いても同じ。それこそ日本でいえば、公立学校の先生が、来年から私学の教員にもなれる。同一労働同一賃金は、基準の設定が100以上あって大変ですけど、そういうのをみんなでやり切っている。

これは、子どもの頃から、個別学習で自己決定をしているからです。自分で決められるし、自分で動ける。でも、ゆとり世代の子たちの中には、これができる子もいるんです。なのに、「上からの命令であれば言う通りにするはずだ」と頭から思っていると、「自分に従って動いてくれない」「ゆとりは使えない」ということになる。でも、若い人もすぐにおかしさに気づきますから。すぐに辞めてしまいますよね。僕が聞いて一番早かったのは、4月1日の入社式の日に、お弁当を買いに出てそのままトンズラしちゃった子かな。

こういう子たちをどうやって指導すればいいのか、自信がなくなった、なんて相談されることもありますが、シンプルですよ。彼なり彼女なりが、興味関心を持っている領域をまずは見ることです。「こういうことに打ち込む力があるな」ということを見極める。それぞれの個の力をしっかりつかむ。これと会社の経営や営業活動とマッチングさせて、仕事を組み立てていく。自分で決めさせて、自分で提案させて、自分で行動させるんです。自分で判断すれば、ちゃんと強みを発揮するんですよ。自分の戦いにして励ましていく、見守っていく。そうしたら、トップアスリートみたいに、自ら動いて結果を出してくれると思いますね。

イクメンをやらないと、おじいちゃんになってから困る

女性の活躍という視点で、企業に求められてくるものはどんなことでしょうか?

尾木直樹さん講演依頼.comスペシャルインタビュー

子育てをいかに支援していくか、ということです。これは企業の活動にとっても重要なんですよ。ある自動車関係の大企業から講演に呼ばれたことがありました。これが面白くて。夫婦ペアで揃って参加しないといけないんですよ。何かというと、子育てについて夫婦でどう力を合わせていくか、父親の出番、母親の役割、子どもの理解の仕方、そういうものをワークも入れながらセミナー形式でやるんです。これもまた面白いんだけど、講演後には、イキイキした表情になって帰れるようにしてください、と要望されて(笑)。しかもすごいのは、3歳までの子どもを持つ親だけ集める回、思春期の子どもを持つ親の回、等と細かく分けられていたこと。僕が講演して、対応の仕方をロールプレイしてもらったりしました。

実際、今の若い親は困っているんです。例えば、子どもの発達には段階があるわけですね。それがわからないから悩む。赤ちゃんを抱っこしたのは、自分の産んだ赤ちゃんが初めてだった、という方が意外と多いんですよ。だからイヤイヤ期にも悩む。どうしてこんなにイヤイヤ言うのかわかんない、と。これは、初めてだからわからないんですよ。だから、「こうですよ」と具体的に教えてあげる。それこそ1カ月後の見通しみたいなことがわかれば、「なんだ、今だけの苦労か」ということが見えるわけです。長い子は1年以上かかるけど、一般的には4歳になる頃には終わります。80歳のイヤイヤ期のおばあちゃんなんか、見たことないじゃないですか(笑)。でも、ここをくぐり抜けないと、正常な発達はできないんですね。

こういうことがわかっていると、子どもはますます可愛くなる。でも、科学的にもわかっていることなんですよ。それをちょっと教えてもらうだけでも、気は楽になるわけです。子どものことが不安だと、仕事にも集中できない。企業にとっても、子育てについて理解しているということは、とても大きいんですよ。

男性の子育て参加をいかに促進するか、についてはいかがでしょうか?

男性の子育て参加も、いい話がありますよ。よく保育園の建設時なんかに、地域の高齢者から「うるさいからやめてくれ」と反対が出たりするじゃないですか。あれを言っているのは、ほとんどがおじいちゃんなんです。母性性が欠けているおじいちゃんは、高音の子どもの声は、精神的に辛いんです。でも、これを乗り越えられる方法があるんですね。これが、イクメンなんですよ。若い時に育児に参加していると辛くないんです。

「NHKスペシャル」で紹介されていた実験ですが、男女各9人にノイズと赤ちゃんの泣き声をそれぞれ聞かせると、育児経験の有無に関わらず、女性は赤ちゃんの泣き声により強く脳が反応したのに、男性はノイズと同じ程度にしか反応しなかったの。また、別の実験でわかったのは、母親は自分の赤ちゃんの泣き顔を見ただけで脳のある部分がパッと反応する。「赤ちゃんが泣いている。すぐにケアしなさい!」という指令が脳から即座に出る。だから、熟睡していてもすぐ赤ちゃんのところに行けるんですね。けれど、ある実験で、子どもと接した経験のほとんどない9人の男子学生に、赤ちゃんと触れ合ってもらうことを、1週間に2時間ずつ3カ月続けて、子どもの泣き顔を見た時の脳活動の変化を調べると、子どもに愛着を感じる部分など複数の場所が活性化していたのよ。

育児を手伝っていればパパの脳も変わってきて、おじいちゃんになったときに孫が可愛くなる。イクメンをやっていると、そうなるんです。でも、やっていないと孫が可愛くない。そういうおじいちゃんには、孫も寄っていかないですね。だから、ますます可愛くない。こうなったら老後は寂しいですよ、定年退職したあとがつまらない。孫が可愛くない、来てくれないなんて。だから、幸せな老後のためにも、イクメンはしっかりやっておいたほうがいいんですよ。脳が変わるから。

最近では、「孫育て」という言葉もあるそうですね?

尾木直樹さん講演依頼.comスペシャルインタビュー

おじいちゃん、おばあちゃん、これからそうなっていく人たちに向けて、孫育てが大事という話もよくしますね。今保育園の待機児童の問題もありますが、保育園に入れて復職したママも、例えば子どもがインフルエンザなどの病気にかかったら登園禁止。保育園に1週間預けられなかったりするわけです。仕事を長く休めないママ達は、おばあちゃんに代わりに見てもらうなどで対応しているという話もよく聞きますよね。子どもは小さいうちはよく熱も出しますし、本当はもっと社会的に支援が必要なんですが。

そういった必要にかられてということだけでなくて、僕はどんどん孫育てに参加したほうがいいとおすすめしたいんです。言われなくても、女性は積極的にやりますけどね。おばあちゃんは、本能的にもう一度母親に戻るんです。特に、働いていたおばあちゃんはママ戻りします。専業主婦の場合は、ちょっと距離をあけてゆったりしていますね。働いていたママは、やっぱり時間的な余裕がなくて手をかけられなかった、という後悔の思いがあるんでしょうね。やり尽くしていないんです。だから、孫ができたらやり尽くそう、と考える。おっぱいが出たりする場合もありますからね。母性が身体まで変えるんです。

僕もそうですけど、男性も孫育てに関わったら変わります。自分の子どものときは、目の前のことに夢中じゃないですか。余裕がないんですよ。子どもにゆっくり自分で決めさせてあげるのも難しい。「ピンクの靴を履くのか、長靴を履くのか、自分で決めさせるのがいい」。そんなことをわかっていても、「早くやりなさい、遅刻する、急いで」となるわけです。「早くして」が口癖になりますよね。子どもが成長していくのを、楽しんでいる余裕はなかった。でも、孫になるとそうじゃない。3日前はできなかったのにできるようになった、こんなことがしゃべれるようになった、とか全て見えてくるわけです。孫育ては、絶対にしたほうがいいですね。

これからの時代を生き抜くための「7つの力」

働きながら子育てをしている女性にメッセージはありますか?

尾木直樹さん講演依頼.comスペシャルインタビュー

働きながら子育てしているお母さんたちは大変です。本当は会社を辞めて育てたほうが、子どもにはいいんじゃないか、なんて思っているケースも多い。特に3歳まではそうみたいですね。3歳児神話という言葉がありますが、実はこれは本当に神話なんです。専門家や研究者に聞いても、みんな即座に否定しますよ。関係ないです。

むしろ大事なのは、社会全体の取り組みです。企業内の保育所など、いろんなことを含めて支援体制を厚くする。どうしてお母さんたちが自分でずっとやりたいのかというと、子育てと働くことの両立がしづらいからですよ。それで、子育てに全部しわ寄せがいってしまう。それに辛くて、「辞めて愛情をすべて注ぎたい」と思うんです。だから、そんなふうに思わなくて済むような支援体制を作ってあげればいいんです。論点をずらしてはいけない。2人目が産めないのも、そういう理由が大きい。少子化がこんなにひどくなったのはそのためでしょう。社会的な支援体制とか、ケア体制を整えていくほうが活力が出るんです。目先のことだけを考えていたらダメ。10年後、30年後を考えていかないと。

今後は、自治体向け、企業向けでは、どんな講演テーマをお考えですか? 著書『7つの人生力』では、楽しむ力、言葉の力、聴く力、失敗する力、認める力、寄り添う力、感謝する力を挙げておられました。

尾木直樹さん講演依頼.comスペシャルインタビュー

すべてのテーマが講演でお伝えしたいことですね。例えば、失敗する力。失敗する力は、ものすごく重要だと思います。アスリートだって、みんな失敗を活かして次に這い上がるわけです。結果が出せず、その悔しさをバネに頑張る。振り返りが的確に行われ、目標をしっかり立てて挑んだときに、成功していくわけです。その意味で大事なことは、失敗から何を学ぶのか、ということです。

僕も受験という受験は、オールパーフェクトに失敗しているんです。高校入試に失敗。転校するときの編入試験にも失敗。大学入試は全滅。教員採用試験も落ちたし、車の運転免許も落ちた(笑)。良かったのは、失敗したときに、母親が「大丈夫?」と言わなかったことです。「大丈夫?」って聞かれたら、「大丈夫」って答えるしかないじゃないですか。条件反射で出てくるんです。そうじゃなくて、もし声をかけるなら具体的にかけないと。空振り三振してバッターボックスから戻ってきたときには、「1回目よりも振りは良くなっている。次はいけるよ」とかね。僕の場合は、母親がいつもこう言っていたんです。「平気、平気。直樹は大器晩成だから」。だけど、いくつになっても大成しなくて(笑)。63歳でなっちゃったわけ。しかも、「ママ」になっちゃって(笑)。その意味では、当たっていた。これには本人が一番驚きました(笑)。

明石家さんまさんが僕の声と話し方を聞いて、尾木ママと命名してくれたんだけど、ママっぽい声なのね。だから、僕の講演会は赤ちゃんから最高齢は97歳のおじいちゃんまで、みんな一緒なんです。育児室も保育施設もいらない。和気藹々。ワーワー泣きわめく子もいない。『所ジョージの目がテン!』って番組あるでしょ。その番組で実験してくれたんですよ。学生を10人ずつ別の部屋に入れて、片方は尾木ママのトーンで口まねしてしゃべる。もう片方は、普通のサラリーマンの男性の言葉でしゃべる。どっちも同じことを言うんだけど、終わってから、さっきしゃべったことを思い出してください、と試験をしたら、尾木ママトーンでしゃべったほうが約1.5倍も正解率が高かったんです。

脳科学的に言うと、安心してる精神状態のときは、海馬の容積がふわっと膨らむんです。受け入れる体制ができる。逆に緊張感があって、「怖いな」と思ったりすると入ってこないんです。何か覚えよう、と暗記物なんかをするときには、それこそノートに落書きなんかして遊んだりしたでしょう。あれ、いいんですよ。記憶力がまったく違うんです。恐ろしいほど違う。実験で明らかになっていますからね。東大生が小中学校時代、どこで勉強してたかって、アンケートを2010年にしたら、約48%がリビングだったんです。テレビの声がちょっと聞こえているくらいのほうが、リラックスできていいようです。だから、日本の頑固な精神主義とか、根性論とか、「起立」「姿勢を正せ」なんて、間違いだったんです。寝転がって、というわけではないけど、リラックスしたほうがいい。勉強だって仕事だって、休憩時間に、ちょっと遊具があったり、卓球台があったりなんかして遊んだりしていく中で、融和できてくるとか、いろんな工夫ができると思いますよ。リラックスが大事なんですよ。

僕は「ありのままに今を輝く」という言葉を大切にしています。講演で僕の話を聴いて、ためになったとか、元気が出たとか、みんながありのままの自分で今を輝かせることができるように、何かのヒントを与えられたら嬉しいですね。

尾木直樹講演依頼.comスペシャルインタビュー

――取材・文:上阪 徹/写真:三宅 詩朗/編集:鈴木 ちづる