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No.25 斉藤美穂

斉藤美穂 (さいとう・みほ)

斉藤美穂 (さいとう・みほ)

ショコラティエール

インタビュー INTERVIEW/美しい人 No.25 斉藤美穂 「与えられた環境の中で「自分の力で精一杯生きる」これ以上、美しい生き方は他にないのではないでしょうか。」 Photo:三宅詩朗/ Text:森綾/ Edtior:鈴木ちづる

No.25 斉藤美穂

― 斉藤さんはテレビの情報番組での歯に衣着せぬ明解な批評が人気ですが、あれはやはり本物を知る人ならではのコメントですね。
斉藤 出演にあたって、私の年齢で美味しくないものを美味しいと言うには抵抗がありました。また、評価の対象がコンビニエンスストアやファミリーレストラン、居酒屋のメニューだとお聞きしたので、馴染みがあまりないため、評価をつける自信もありませんでした。しかし、「思った通り言って頂いて結構です」とおっしゃるので、お引き受けしました。実際に出演してみると、各企業の皆様方の多大なる努力を垣間見ることができ、私の考え方も180度変わりました。日本全国の方々に喜んでもらえる商品、しかもリーズナブルなお値段で提供する。同じ作り手として、頭が下がる思いでした。
― 「本物を知る」誰かが教えてくれないとわからないということもあります。もともとは、専業主婦でいらっしゃったんですね。
斉藤 はい。主人が商社に勤めていて、転勤でパリに行ったのが1970年代のことでした。当時、娘は1歳半。はじめは子どもを公園に連れていくだけの日々でしたが、ベビーシッターが見つかったので、フランス料理を勉強しようと決心しました。ところが学んだものが美味しくないんですよ(笑)。ひとつずつ調味料を揃えたり、手がかかる割にはまず主人が喜んでくれない。あるとき来客があり、1週間も前から準備したのに「こんなまずいものを出すな。みそ汁とご飯でいいんだ」と言われてしまって。なぜだろうと考えたところ、当時の本場のフランス料理というのは、素材の粗悪さを隠すためにソースが発達したものと言われており、素材の原型がなくなるまで煮込んで、それをバターたっぷりのこってりした重いソースにするのがフランス料理の主流で、私自身、フルコースでいただく時は、とてもエネルギーが必要とするお料理でした。我々日本人にとって常食にはなり得ない、という思いがありました。
― では最初のパリではあまりフランス料理に良い思い出はなかったんですね。
斉藤 はい。4年間いたのですが。しかし、ちょうど日本に帰国する直前にパリに日航ホテルができて、その時の「ル・セレブリテ」のシェフがジョエル・ロブション氏だったんです。オープニングにも招待されました。そして風の便りに1年目に一つ星をとり、3年目に独立して「ジャマン」というレストランで三つ星をとったと聞いたんです。
― そのロブション氏にも後に学ばれることになるのですが、パリから帰国後、今度はメキシコに渡られています。
斉藤 パリから帰国して8年後、5年間のメキシコ転勤でした。翌年、やはりメキシコにも日航ホテルができて、ロブション氏の一番弟子がシェフになりました。パティシエ、バンケットのシェフ、総料理長。全員パリからの招聘でした。メキシコは治安が悪く、パリのようにちょっと外を歩いて息抜きをするということも当時は難しかったです。私は38歳。子育てと言葉がわからないテレビを見る毎日。限られた娯楽の中で、たいくつな生活をする毎日でした。それであるとき、主人が私をパリに行かせてくれたんです。それで3ヶ月先まで予約が埋まっている「ジャマン」のランチをキャンセルのウェイティングのトップに入れてもらって味わうことができました。メキシコ人の友達と行ったのですが、お皿を見た瞬間から全身に震えがくるほどの感動を覚えました。素材を生かす調理。デザートに至るまで盛りつけもアートのようで。その夜は眠れませんでしたね。フランス料理が180度変わったのだと思いました。メキシコに戻り「ジョエル・ロブションの料理を学びたい」と強く思うようになりました。
― それでまずはメキシコの弟子のところでスタージュ(勉強する)されたのですね。
斉藤 丸2年、メキシコの日航ホテルの「ル・セレブリテ」でスタージュさせてもらいました。きちんと時間通りに行くし、言われたことはするから、それがまず重宝されました。最後はメニューを相談されるほどになっていました。パリから来ている4人のシェフたちと彼ら専用の社員食堂で食事したりもしました。「モナコで三つ星をとった男がいるんだ。アラン・デュカスというんだけどね」などという情報も聞けましたね。
– それからいよいよパリの「ジャマン」の厨房にいらっしゃるわけですね。
斉藤 最初に「ジャマンでスタージュしたい」と言ったら、みんなぽかんとした顔をしていましたよ(笑)。「本気なの」「入りたくても入れないよ」といった会話があって、当時一番弟子のフィリップ氏が「バカンスでパリに戻った時、直接ジョエル・ロブション氏に聞いてみてあげるよ」と言ってくれたんです。そうしたら「マダム、OKだよ」という電話がかかってきました。家族もびっくりしていました。幸いなことに、メキシコの我が家のあるアパートメントは夫の会社の裏にあり、子どもたちの学校もドア・トゥ・ドアでバスで送り迎えをしてくれる。それで1ヶ月分の食べ物を冷凍して、夫には昼に帰ってきてもらうことにして、1ヶ月、単身、パリに行ったんです。

No.25 斉藤美穂

― 「ジャマン」で学んだことは大きかったですか。
斉藤 まず最初にロブション氏に言われたことは「あなたは何をしていらっしゃる方ですか」と。「主婦です」と答えると「私共がどんなに頑張っても、あなたが家族に作る料理にはかなわないんですよ」と。それは家庭料理はビジネスではなく、家族の好みを知り、愛情をもってつくるものだから。その考えは今も私の基本にありますし、皆さんにも一番言いたいことですね。その反面、シェフの素晴らしいところは「人の手を使って自分を表現できる」というところです。
― その後、ショコラティエの勉強をされるのはどういうきっかけだったのでしょうか。
斉藤 ロブション氏から「チョコレートに興味はないか」と聞かれたんです。興味がない理由をフランス語で上手く説明する事が難しくて(笑)つい「興味がある」と言ってしまいました。ただ「ジャマン」ではデザートに大変重きを置いていて、クライマックスはメインが終わってデザートに移るときだとも言われているんです。そしてデザートの半分以上はチョコレートに関するもの。1989年にロブション氏からジャン=ポール・エヴァン氏を紹介されました。当時は海外展開もしてなく、今と比較すると小規模な店舗でした。それで「12月が忙しいからそのあたりで」という話になって、また11月末から12月末まで、メキシコからパリへ行ってスタージュしました。
― 斉藤さんは人として魅力的で仕事もできたから受け入れられたのだと思いますが、日本人として初めて「ジャマン」にも「ジャン・ポール・エヴァン」にも…その後、「オテル・ド・クリヨン」や「ル・ブリストル」 、スペインの「エル・ブジ」でまでスタージュされています。そこまで続けられたのはなぜだと思われますか。
斉藤 まず、受け入れられたという点では、これは私の勝手な憶測ですが、私の背後にビジネス的な要素を感じられなかったからだと考えております。自分自身も、将来、料理を仕事にできるなんて夢にも思っていませんでしたから。学生時代はそれほど勉強に打ち込んだわけではなかったけれど、突き詰めて研究することは意外に好きだったのかもしれません。結果として、料理がライフワークになりました。料理・お菓子作りに関してはストレスを一切感じません(笑)
― 日本の女性誌で、斉藤さんがだんだんひっぱりだこになっていった理由がわかる気がします。一般の主婦のみなさんに、ちょっと毎日の料理が楽しくなるようなアドバイスをいただけませんか。
斉藤 新しい食材を試してみるのは楽しいですよ。それと、たまには素敵なレストランに行って、そこで食べたものを再現してみるのもいいと思います。盛りつけ方にしてもプロの料理は参考になることがありますから。私は買い物に行くと「よし、今日は全部セール品で考えてみよう」なんて、献立を考えたりします。どんなに忙しくても1週間の献立を予め決めたことはありません。スーパーで食材を見ながらバランスよく栄養素が取れることを考えるのが一番だと思います。美味しい食べ物は、実は皆さんの手の中にあるんです!
― 最後に斉藤さんが考える「美しい生き方」ってどんなことでしょう。
斉藤 美しく生きようなんて考えたこともありません。その時々、今を生きるということです。与えられた今を精一杯生きる。その積み重ねですね。与えられた環境の中で「自分の力で精一杯生きる」これ以上、美しい生き方は他にはないのではないでしょうか。

美の逸品

「オーガニックボタニクスのエッセンシャルオイル」

「スタージュをしたいという私の思いを受け入れてくれたシェフ、パティシエの9人。東京都港区の芝公園にあるセレスティンホテルのカフェの一角で私のブランドショップが設立されたときに、お世話になった方々に報告の手紙を書いたところ、9人全員から熱い返事が届きました。この手紙は私の宝物です。皆さんのおかげで今の私がいる、と思うと感慨深いです」

斉藤美穂 (さいとう・みほ)

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斉藤美穂 (さいとう・みほ)さいとうみほ

ショコラティエール

ジョエル・ロブション氏が創った一皿の料理との出会いをきっかけにフランス料理を深く学びたいと望み、「ル・セレブリテ」での研修を経て、日本人女性として初めて、ジョエル・ロブション氏オーナーのパリの三つ星レ…

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