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中村勝雄さんの第8回『小学館ノンフィクション大賞』審査委員の選評より


■猪瀬直樹(作家)
「パラダイスウォーカー」は、重度脳性マヒをわずらう中村氏のハワイ旅行と、
初恋に破れた話など半生が描かれている。読後感が爽やかだった。

■野田正彰(評論家)
パラダイスウォーカーの可能性に期待
選考を重ねるにつれ、国際政治から細かい日常生活の襞まで、スポーツや冒険から神秘体験に到るまで、
多彩なテーマに挑戦する候補作品が並ぶようになった。
今年度も「小学館ノンフィクション大賞」の候補作らしい、多彩な五作品を受け取った。

五作品の内、私が比較的高く評価したのは、中村勝雄さんの『パラダイスウォーカー』である。
この本は、近年の障害をテーマとした本の流れのひとつとみなされてしまうかもしれないが、
重度の脳性マヒをもった著者の外出中の排泄との闘い、非協力的な駅員への攻撃心などが書き込まれ、
単に積極的な生き方だけを強調した著作ではない。
さらに深く怒りや悲しみの過程を分析し、車イスでの旅人の内面を描ききっていれば、と残念に思う。
書き直しを期待して、私は優秀作に推した。

■櫻井よしこ(ジャーナリスト)
中村氏の「パラダイスウォーカー」は、重度の脳性マヒを患う作者が自らの日常を綴ったもので、
前向きで明るい物語に仕上がっている。だが逆に言えば、生々しさがあまり伝わってこない。
望むほうが酷なのかもしれないが、もっと自らの内面をさらけ出す事が出来れば、伝わるものは違ったであろう。

■深沢祐介(作家)
「パラダイスウォーカー」は明るく、やはり障害者ならではの現実感があり、排泄にまつわる苦労など真に迫る。
たぶん『五体不満足』の二番煎じと評されることもあろう。
が、彼が正面から問題に立ち向かえば、新しい境地が開けるであろう。

■新聞の書評から
重度の障害のための食事も着替えも自由にならない著者が挑戦した、海外への一人旅。
「人生には前進する力だけがある」(サン=テグジュペリ)との気概に燃える
パラダイスウォーカー(楽園を往く者)の素晴らしき出会いが綴られている。
(小学館・1,500円+税)

週刊ポスト(2001.8)より抜粋